就活お役立ち情報

社会人育成への疑問

執筆者 西垣千春先生(神戸学院大学 学生の未来センター所長)

≪メールマガジン第109号≫2021-03-01配信

【社会人育成への疑問-神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第12回)】

<最後のつぶやき ~お礼とお願い~>

今年度の神戸学院大学の後期授業はオンラインでも対面でも受講が可能となったことから、目の前にいる学生とパソコン画面の中にいる学生とに配慮しながら進めてきたつもりでしたが、視線は教室にいる学生に向きがちになってしまいました。ゼミのような小さな規模でも、ビデオをオフにしている学生が多く、顔と名前は一致しないままで、進め方、雰囲気づくりはとても難しいものです。時間や話題を共有しているとはいえ、画面から視線をそらしミュートにしていると、そこにあるのはパソコンだけ。虚しさを感じます。
オンライン授業に馴染めず、下宿して頑張っていた学生が退学し、地元の大学に入りなおしたり、対面であれば人に聞きながらでもできていたことに困難を感じ、提出物が出せず、単位取得ができなかったりした学生も少なからずいます。大学に限ったことではなく、企業もオンラインワークのメリット、デメリットを検証しています。レジリエンス強化に向け、様々な体制が見直されていきそうです。仕事の仕方が大きく変わるのは間違いないでしょう。人々の健康や幸福感にどのような影響が現れるのか、ポストコロナの社会を見守りたいと思います。
 現在の3年生の就職活動もスタートしました。門戸を開いている企業のインターンシップに参加する学生は例年より多いように思います。春休みにも関わらず履歴書の指導を受けに来る学生も多く、厳しさを感じ取っている様子が伝わります。
 「とにかく就職の内定を得て安心したい。そこが自分に向いているかはわからない。まずやってみて、転職していってもいいと思う。」と大半の学生が口にします。大学時代に学んだことがどこまで生かせるか、何に向かって人生を考えるのか、悩む学生が多いのも事実です。いまの「新卒一括採用」のままでいいのか、考えるときにきているのかもしれません。
 コロナ禍にあって、文部科学省では就労支援にかかる第3次補正予算が組まれ、失業者への支援の強化が図られようとしています。
大学もその対応に取り組むよう促されています。一度社会に出た人が自身のスキルや知識を伸ばし、より活躍するために学びなおすためのプログラムを「リカレント教育」と呼びますが、正規就労者や失業者、ブランクののち働きたい人へは、チャンスが少なく、どのように教育の機会をひろげていくのか、今大学も考えるときがきているのだと感じます。しかしながら、従来の研究や授業だけではかゆいところに手は届きません。悩んでいる方の声を聴くこと、中小企業や地元密着の事業者の方の今後の展望、そして住んでいる人、働いている人とどんなまちをつくるのかを自治体から発信することとあわせて、「リカレント教育」を含めた「新たな知の拠点」としての大学の役割を創造していく必要があります。

 最後になりましたが、1年間お読みいただきありがとうございました。今後もいろいろな方と直接お話しさせていただき、お力をお貸しいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。学生の未来センターでは退学を考える学生・保護者とお話しをさせていただく中で、やらなければならないこと、お願いしなければならないことに気づく機会がたくさんあります。これからもスタッフみなで力を合わせ取り組んで参ります。
 3月はまだ寒暖の行き来があります。新型コロナのワクチンが功を奏し、コロナ禍が過去のこととなりますように。どうか暖かな春がきますようにと願います。
(神戸学院大学学生の未来センター gakuseimirai@kobegakun.ac.jp)

≪メールマガジン第108号≫2021-02-01配信

【社会人育成への疑問-神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第11回)】

<目の前の現実をとおして見えること その③>

学生の未来センターによせられる相談の中にも、コロナ禍の影響によるものが増えてきています。学生の中には、アルバイトで交通費や昼食費を賄っているものは多くいます。飲食店や小売店舗などで仕事をしていたものの多くはバイト代が減額になっています。ほとんど外出しなくなった者や効率的に稼げる夜勤のアルバイトなどで生活リズムを乱し授業に出られなくなる者が増加するなど、悪影響が出始めています。

授業の中で、「今、コロナ禍で影響を受けやすい人はどんな人か、どう把握して、どんな対応ができるか話してみよう」とグループディスカッションを始めたときでした。一人の学生が「今めちゃ影響受けている。賄い付きのバイトして今まで夕食たべられたけど、客が減りバイトできなくなり、この2,3日まともにたべてない。」と笑いながら話してくれました。あとから話をきくと、お母さんの給与も減り、家賃と光熱水費を払うことで精一杯。持っているものをネットで少しずつ売り、何とか過ごしている、外に出るとお金が要るので家で過ごす時間が増えたと伝えてくれました。授業でいつも出会うだけでは想像もできない状況でした。

今よく耳にするSDGs(持続可能な開発目標)は「あらゆる形態の貧困の撲滅」を地球規模の最大の課題としており、「だれ一人取り残さない」を誓った計画目標です。経済・環境・社会が融合し変革を起こすことによりあらゆるひとの人権を保障するという考え方です。様々な形でSDGsへ貢献する人が増えており、改めて何を目指しているのか、どんな社会を創ろうとしているのかを知ってもらう必要があると思います。特にこれから長い人生を歩もうとするこども・若者が未来を描ける社会であってほしいと願わずにはいられません。

大学には広いキャンパス、校舎、図書館、体育館、グラウンドなどのハード設備があり、多様な研究に取り組む者、様々な技術や知識をもつ教職員、そして何より多くの若者という人材がいます。交じり合うこと、機能を活用することで、できることは広がります。毎年、一定の学生が卒業し、また入学してきます。変わらない1年ではなく新たな出会いを通じ、学生が育ってきた環境の変化を感じる場でもあります。敏感にならなければいけないと感じます。生活の質に関わる「世代間の議論」や「排除される人がいないこと」を目の前の現実から考えていくことを大学の授業をはじめ、あらゆる場面を通して改めて考えていきたいと思います。受け身の相談の場を作るだけではつかめない変化、ニーズが多くあります。

季節の変わり目に入り込む邪気を払う節分の日に「鬼は外、福は内」しっかり願うひとが多いのではないでしょうか。緊急事態が続く中、どうか体調崩さないようお気をつけください。

≪メールマガジン第107号≫2021-01-04配信

【社会人育成への疑問-神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第10回)】

<目の前の現実をとおして見えること その②>

新型コロナウイルスの感染がさらなる脅威をもたらしたまま新たな年の幕があきました。牛歩でも今年はなんとか確実に前に進むよう願っているひとが多いと思います。
12月号では、人生終盤に寂しさ、不安を感じながら過ごしている人が少なくない現状に触れました。どのタイミングで誰と出会い、必要な情報を得られるかが人生を左右します。
今、人との接触機会が減り、周りの人が出すシグナルにも気づくチャンスが減っています。コロナ禍で失業する人が増えている状況、また、長引く感染対策で特定の業種に与える影響は大きく、緊急の手当てだけではすまない多くの問題が生じています。

随分以前のことになりますが、街の中でテント暮らしをしておられた方に話をお聞きしたことがありました。年齢は30代半ば、勤めていた会社が倒産し、就職活動するも仕事が見つからず、家賃が払えなくなりネットカフェ暮らしを経てテント生活となったと聞きました。このAさんの実家は街の電気屋さんで、近年売り上げが減り厳しい状況に陥っていたため、Aさんは奨学金とアルバイトで大学に進学し、情報工学を専攻、パソコンスキルを身につけました。人と話すのが得意でないAさんは相当数の就職試験を受けたのち、大手電機メーカーの下請け子会社に内定を得て働きだしました。パソコンスキルを買われ、事務の仕事をまかされていました。Aさんは一生働くつもりだったそうです。しかし請け負っていた部品が使用されなくなり、一気に業績悪化、倒産解雇に至りました。しばらくは失業保険で何とか暮らしていましたが、就職活動をしても面接でうまく話せず、内定は得られないままでした。友人もなく、実家とも疎遠になっており、連絡を取っていない状態でした。最近では身なりにも手が回らず、就職活動からも遠ざかっています。
話していたとき、AさんはA4のファイルを取り出し、多くの資格証明書をみせてくれました。Aさんには働く能力も意志もあるにも関わらず、なぜ再就職に結びつかないのでしょうか。

2020年上半期の倒産件数は、リスケ(返済計画変更)により増えていませんが、年度末には2013年以来の1万件を超えるとも予想されています。若い世代(15~34歳)の失業率は他の年代よりも高く、今後の人生を描くうえでも、労働力不足の中においても対応が急がれねばなりません。
Aさんも失業してすぐに就職活動を始めています。その頃は身なりもきちんとし、一見では困っていることは分からなかったでしょう。悩みを打ちあける人もなく、住む場所を失うとさらに就職は遠ざかってしまいます。若い年代のほとんどは社会に出る前に学校、特に大学や高校に在籍していたものが多いはずです。大学にあるどのような機能の発揮が今求められているのか考えてみたいと思います。

寒さの本番を迎えます。例年にも増して風邪をひかないよう、寒暖の差にお気をつけください。

≪メールマガジン第106号≫2020-12-01配信

【社会人育成への疑問 - 神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第9回)】

<目の前の現実をとおして見えること その①>

なぜ、寂しさや不安を感じながら生活をしている人が少なくないのでしょう。
ふと思い出した出会いをご紹介したいと思います。

ある日、会議に向かう前に通り道のデパ地下のフードコートで昼食をとろうと思い、パンとコーヒーを買い座る席を探していました。「どうぞ。」と声をかけ、横の席に置いていた荷物を降ろしてくださる方がいました。80歳くらいの上品なご婦人でした。「ありがとうございます。」と座らせていただくと、いろいろ話してくださいました。3年前に配偶者を亡くされ、おひとりで生活しておられること、お子さんはおられず、広い家におひとりで過ごすのはとても寂しく、週に一度はここに食べに来ること。ご主人を支え生きてこられ、友人と会うこともほとんどなく、話すこともないので、ここに来て時々話しできるのが楽しみとのこと。ゆっくりお昼をとり、人の気配を感じ帰っていくのだと仰っていました。
これから先の生活をどのように過ごされるのか、何か急な事態が起こったときどうされるのか、など気になりつつもその場を去ってしまいました。その後何度かデパ地下を訪れるたびにその方に会えないかと探してみましたが、会えずじまいです。

人の生活には転機となるときがあると思います。予測できるもの、できないものがありますが、予測できるものに対しては、転機がその後どのように生活を変えるのか、知る機会があるのとないのでは、生活が随分異なると考えられます。先のご婦人も結婚され、お子様がおられない中で高齢になられた。いつかはどちらかが先立つことになると予想しておられたと思います。ただ、配偶者が高齢になられ、介護を要する状況になってから、配偶者亡き後の生活を考える余裕はなくなってしまいます。情報もない中、一人暮らしが始まってしまい、今までの役割もなくしてしまわれた。経済的にも心身状態も問題なければ、周りからは見過ごされる寂しさです。
現在、わが国の全世帯数に占める高齢者のみ(単身または高齢夫婦)の世帯は約4分の1を占めています。そのほぼ半数が夫婦のみの世帯です。加齢のスピードや健康への影響は人によって大きく異なります。ただ、75歳以上の後期高齢者になると急激に健康状態が悪化する人が増えるのはデータから明らかです。75歳未満の前期高齢者の将来のリスク要因はなになのか、見逃されていることがあるように感じます。授業で祖父母と暮らす学生に手を挙げてもらうのですが、100人いると2,3人の手しかあがりません。若者が加齢による変化を知る機会も減っています。人と交わることが何を生み出しているのか、改めて考えたいと思います。

吹く風に思わず肩をすぼめてしまいます。日が差しているとぽかぽかと感じますが、どうか服装選びにお気をつけください。

≪メールマガジン第105号≫2020-11-02配信

【社会人育成への疑問-神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第8回)】

<「よい生活」を考える>

車窓から見る山々は日毎に彩り豊かになっています。急に寒さもやってきて、変化に驚かされるこの頃です。どうか体調崩されないよう、と願います。
さて、改めてよりよい生活とは何なのかを考えてみたいと思います。経済成長は我々の生活を向上させる発想を豊かにし、多くのものを生産する企業を生み出しました。そこで働くことを通じて給与を得て、通勤しやすい場所に居を構え、家族を形成するものが増えました。先端の技術や専門の知識を得た大学生により高い給与が提示され、大学進学率が上がる要因ができました。生活への満足度は上がったのでしょうか。
折しも、10月20日、南米ウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカ氏の政界引退が報じられました。「世界で最も貧しい(ムヒカ氏は「質素」と言い換えています)大統領」と称され、日本とのゆかりもあることから絵本や映画が制作され、よく知られる存在です。2012年環境の未来を決めるリオ会議の演説は世界中の注目を集めました。会議の最後に登壇したムヒカ氏は、「ずっと話されていたこととは持続可能な発展と世界の貧困をなくすことでした。私たちの本音は何なのでしょうか。現在の裕福な国々の発展と消費モデルを真似することでしょうか。」という投げかけから始めました。中盤では「根本的な問題は私たちが実行した社会モデルなのです。そして改めて見直さなければならないのは私たちの生活スタイルだということ。」と提言し、スピーチの最後には「発展は幸福を阻害するものであってはならないのです。幸福が私たちの最も大切なものだからです。環境のために戦うのであれば、人類の幸福こそが環境の一番大事な要素であることを覚えておかなければなりません。」と締めくくっています。
先月触れたように、生活の質を高めるあらゆる人々のニーズに配慮する体制の必要と難しさはあったとしても、生活環境を構築する要素に目を向けることで、取り組みへの一歩を踏み出すことは可能だと思います。内閣府が行った「高齢者(60歳以上)の生活と生活環境に関する意識調査(平成22年)」によると、全体では、生きがいを感じない人の割合は12.9%であったのに対し、独居男性では34.9%(女性15.2%)であり、生きがいを感じない人の割合は3倍弱となっていました。ひとと話す機会の少なさ、頼る人がいないことが関連していると示されています。2015年の国勢調査では、独居高齢男性が約192万人(女性約400万人)、65歳以上人口に占める割合は13.3%(女性が21.1%)であることを鑑みると、人生終盤に寂しさ、不安を感じながら過ごしている人が少なくない現状が理解できます。生活の質に関わる、「世代間の議論」や「排除される人がいないこと」を目の前の現実から考えていく必要があると感じます。

≪メールマガジン第104号≫2020-10-01配信

【社会人育成への疑問-神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第7回)】

<何が生活をよくするのか?>

よりよい生活を求めて人々は生活様式を変えてきました。狩猟社会の時代から農耕社会への移行は、自然の中をさすらい、食料を探す不安定な生活からの脱却であり、ものを作り、環境を変えていくという、ヒトが明らかに他の生物とは異なる進化を遂げ、定住という生活様式を手に入れ繁栄を導いてきました。
では、近年の日本の変化はどうでしょう。働き方が変わり、住まい方が変わり、家族の在り様も変化してきました。よりよい生活を求めてのことですが、今大きな課題にも直面しています。高度経済成長期に建設された団地やその周辺の住宅地の高齢化、空き家の増加。若者の多くが職を求め東京圏を中心とする都市部に集まり、通勤に便利な高層マンションに住まうようになり、多くの地域において自治会活動や地域交流活動の縮小が目立ってきています。よりよい生活に向かっているのでしょうか。
生活の質(Quality of Life: QoL)がそのことを知る手がかりとなります。WHOでは健康の考え方に関して、健康や健康の影響を測定する際、単に病気の症状や重症度を指標とするのではなく幸福度評価を示す生活の質の測定を含まなければならないとしています。ただし、それは人々が暮らす文化や価値規範により認識に差異が生じるために、肉体的健康、精神状態、信仰、社会的関係性、そして人々が置かれている環境の顕著な特徴との関連などの複雑な影響を受ける広い考え方だとされています。
指標には、世代間の議論がなされ、排除される人がいないこと、平和で良い環境にあり、健康や正義が護られ、教育が受けられ、富をもち、政治に参加できることなどがあげられています。これらの環境構築には、あらゆる人々のニーズに配慮した協力体制が必要であるとされており、世界の人々の中にはこれらのQoLの要素が満たされていない人々が多くいると指摘されています。
さて私たちはどうでしょう。都市部には多くの人が働き暮らしています。それは多くの人が出会う機会があり、つながれる可能性はたくさんあることになります。様々な能力を持った人も多く、社会課題の解決につながるイノベーションへの土壌もあると考えられます。田舎では、これまでの食を支える一次産業、自然が豊かであり、長くその土地を知る方々が暮らし、伝統や文化を身近に感じる機会が多いのではないでしょうか。現代社会において顕著に表れ始めた社会課題への認識を高める必要があるのでは、と感じます。
新型コロナウイルスの拡大は、生活に大きな影響を与えています。生活を維持できない人が急激に増加しています。DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に生きる私たちは、変化が引き起こす課題と置かれている環境と人々のもつ強みを知ることで、ひょっとすると新たな発想で暮らし方に大きな変革を導くことができるように感じます。どのような視点を持ち、それぞれの力をどうつなぐのか、それにより生活の質(QoL)のどの側面に働きかけるのか、一刻も早く動き出す必要があるように思えます。

≪メールマガジン第103号≫2020-09-01配信

【社会人育成への疑問-神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第6回)】

<私たちの生き方にどんな変化が起こっているのか?>

 この50年(1970年⇒2019年)の間に、就業者数は5094万人から6724万人に増加しました。前回お伝えしたように第三次産業従事者数は、2417万人から4938万人と2倍以上、全従事者数に占める割合も47.4%から73.4%を占めるにいたりました。一方で第一次産業従事者割合は、16.9%から3.3%、第二次産業従事者は、35.2%から23.3%へと大幅に減少しました。
 高度経済成長期の変化はその後の産業構造の変化だけではなく、住まいや家族のあり方にも大きな変貌をもたらしてきました。住居にも変化が見られるようになり、1983年には建物のむね数が26374100であったものが、2018年には35106900と約1,3倍に増加、1戸建てが全体の9割を占める状況に変わりはないのですが、共同住宅(マンション)のむね数は、1184400から2293600と約2倍の増加を示しています。
 世帯人数にも変化が見られます。1975年には、一人暮らしは18.2%、二人暮らしは15.4%と両者合わせて全体の三分の一、5人以上の世帯が23.3%でしたが、2018年には、一人暮らしが27.7%、二人暮らしが31.8%となり、全体の6割を占めるに至っています。一方で、5人以上の大家族は7.0%へと大きく減少しています。
 これらの変化は何を示しているのでしょう。利便性の高い都市部を中心に多くの企業が集まり、そこで働く人たちの移住が進み、人口が集中することで、人々のアメニティを高めるための飲食、小売り・卸業の増加、また高齢化と家族の小規模化により、人々の生活と深くかかわる医療、福祉職の需要を拡げ、第三次産業従事者は急増していきました。都市部の住宅事情は厳しくなり、高層マンションの建築が進み、若い世代は就職や結婚を機に職場と住居の近いところで生活するようになり、マンションの需要を高めるとともに3世代家族の減少へとつながっていきました。子供が独立した世帯では、夫婦二人暮らし、そして多くの場合は夫が先立ち、妻が一人で暮らすという世帯変化が主流となってきました。
 日本は人口減少時代に突入し、少子高齢化の勢いは緩んでいません。多くの社会課題が急激に現れてきています。多くのマンションではドアを閉めると中の様子がわからず、独立した(場合によっては孤立)空間となります。このことが、ひきこもり、虐待、困窮といった事態の把握を難しくしています。コロナ禍においてはこの状況をさらに悪化させています。また、家族数の減少は、ケアを要する家族がいる場合などの代替や補完の能力の低下につながり、家族の崩壊に至ることもあります。 
しかし一方で、強みとなりうる変化も起きていることも探さなければなりません。常によりよい生活を求めた結果として変化は起きてきていることを考えると、改めてよりよい生活とは何かを問いかけることで、見えてくることがあるかもしれません。次回に考えてみたいと思います。

≪メールマガジン第102号≫2020-08-03配信

【社会人育成への疑問- 神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第5回)】

<私たちの生き方にどんな変化が起こっているのか?>

2012年から、国連により世界幸福度報告(World Happiness Report)が毎年発表されています。2020年の報告では、世界156か国中日本は62位。2015年には46位でしたので、順位はかなり落ちています。幸福度は、「1人あたりの国内総生産(GDP)」「社会的支援」、「人生の選択肢の自由度」「健康寿命」「社会の寛容性」「汚職の無さ」「人生に対する評価・主観的満足度」の項目を積算したものです。ちなみに上位1~3位は、フィンランド、デンマーク、スイスです。上位10か国のうち8か国は北欧が占めています。北欧の国々では、次世代を保障する社会制度や政治への信頼が大きいことが幸福度に影響していると指摘されています。人々の互いへの信頼、貧困や病に陥ったとしてもそのことが人生に及ぼす影響が少ないと感じているものが多いからだといわれています。我が国の状況をみてみると、「GDP」と「健康寿命」は高値ですが、「汚職の無さ」「社会的支援」が低く、特に「人生の選択肢の自由度」と「社会の寛容性」が低くなっています。このような状況から「人生に対する評価・主観的満足度」が非常に低くなっていると考えられます。
もう一つ日本の状況を示す相対的貧困率(世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない人々の割合)をみてみましょう。2016年の日本の相対的貧困率は15.7%、G7の中でアメリカに次いで2番目に高くなっています。この高さには、高齢者、ひとり親世帯、単身者の厳しい状況が影響しており、日本の中に存在する格差が大きいことを示しています。
今、学生の相談にのる機会が多いなかで、学生は自由に生きているのだろうか、やりたい仕事についているのだろうか、と悩むことが増えています。親や祖父母の生きてきた時代と何かがかわってきていると感じます。若い世代がこの先幸せな人生を歩んでいってくれるのだろうか、と心配になることもあります。この疑問について少しひも解いていきたいと思います。
4月のコラムで、大学進学率が少子化の状態にありながら6割に迫る勢いでまだ上昇していることに触れました。大学を卒業した若者の大半は、第三次産業に入っていきます。内定を得られたところに勤務するものがほとんどです。多くの学生は就職活動を通してたくさんの事業所にエントリーを出しています。内定が得られると、「おめでとう」「ひとまず安心だね」と声かけするのが通例となりました。グラフを見ると祖父母世代の就職先は1次、2次、3次産業様々であったことがわかります。働き方の変化とともに何が変わってきているのか、次号でもお伝えしたいと思います。

≪メールマガジン第101号≫2020-07-01配信

【社会人育成への疑問- 神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第4回)】

<行動自粛緩和が始まって考えたこと>

東京アラート、大阪新型コロナ警戒信号などの基準が示され、「緑」が続いていることに安堵するという日が続いています。しかしながらクラスターの発生が相次いでいるニュースが報じられると、また広がるのではないかと心配になります。気軽に出かけることが、意識上これまでのようにはできないと感じる人が多いのではないでしょうか。ウィズコロナの新しい時代の構築にはまだまだ時間が必要と考えられます。
1929年の世界恐慌を上回る経済的不況に陥ると報じられており、感染を押さえられるかという不安と同時に、これから何が起こり、どうすればいいのか、実態の見えない怖さがあります。WHOによると健康は身体的にも精神的にも、社会的にも良好な状態を指しており、これからは健康といえない状態の人が増えると考えられます。日本では、感染力の強いウイルスから生物学的「命」を護るフェーズを過ぎ、感染予防を講じながら「健康」を支えるフェーズに入ったといえます。
これまで、国民の健康づくり対策は時代背景の影響を受けながら展開されてきました。特に、成人病(生活習慣病)の増加が指摘されるようになり、だれもが安心して医療を受けられる体制づくりが行われ、1961年に国民皆保険制度が整いました。同時に栄養改善、体力づくり運動が展開され健康水準は大幅に改善されました。一方で平均寿命の目覚ましい伸びは、新たな課題に取り組む必要性を生み出しました。
高齢化の進展を鑑み1980年代からスタートした健康づくり対策は、健康推進の地域基盤の体制づくり(保健センターの設置、保健師等のマンパワーの増強)を中心にした第1次国民健康づくり対策、1990年代は「アクティブ80ヘルスプラン」と銘うった運動習慣の普及に重点(運動指針、設備の強化)をおいた第2次国民健康づくり対策、2000年代に入り、健康寿命の延伸を目指した1次予防(教育・啓発)を重視した評価体制構築による第3次国民健康づくり対策として展開され、「健康日本21」としてメタボリックシンドローム対策や特定健診の体制が敷かれることになりました。現在は、2013年にスタートした第4次国民健康づくり対策(健康日本21〈第二次〉)の終盤に位置しており、目指す姿として「全ての国民がともに支え合い、健康で幸せに暮らせる社会」を掲げています。その中では、希望や生きがいが持てる社会、相互扶助が機能する社会、健康格差の縮小を実現できる社会などが目標となっています。
感染症との共存の中、どう健康を支えるか。行動自粛緩和が始まった中で思うのは、大変厳しい状況に置かれている方々の状態をよりよくしていくために、何ができるかを考え行動に移す意識づくりの必要性です。社会の変化を受け止め実現してきた健康づくりを絶やさず、健康を損なった人を社会参加の機会につなぎ、必要とする資源へのアクセスの公平性を高めていくことを通して、支え合い、心豊かに生活できる社会を実現していきたいものです。

≪メールマガジン第100号≫2020-06-01配信

【社会人育成への疑問 - 神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第3回)】

<不要不急の行動自粛のとき考えたこと その②>

 兵庫、大阪、京都の緊急事態宣言の解除が5月21日に行われました。ほっとするニュースです。一人ひとりの行動自粛が功を奏したからにほかなりません。
感染症の3大要素は、①感染源 ②感染経路 ③感受性 といわれます。対策として、①感染源に対しては、除去していくことが大切です。早期発見・治療により感染源を持つ人がウイルスを拡散しないようにすること、さらには消毒や掃除により清潔を保持する必要があります。②感染経路に対しては、経路を遮断する必要があります。感染経路別の対策が要りますが、新型コロナウイルスでは、マスク・手洗い・うがいをはじめとする「持ち込まない、持ち出さない、拡げない」行動が求められます。③感受性に対しては、一人ひとりに抵抗力をつけることが期待されます。栄養、睡眠、運動を心掛けること、ワクチンがあれば接種することが当てはまります。
 多くの方が感染症の特性と対策の必要を理解され行動されたからこそ、今回の緊急事態宣言の解除に至りました。しかし一方で不安を感じている人も少なくないと思います。また感染が広がるのではないかと心配です。先月、結核の感染症者が毎年1万数千人ほどであり、死者も2千人弱とお伝えしました。現状の新型コロナウイルス感染状況は同じくらいであり、死者は半分以下です。なぜ、怖いと感じるのでしょう。ワクチンの開発には時間を要するために、確実に防ぐことが不可能だからです。しかも症状の出方には差があり、特に、無症状の人が感染者の中に少なからずいること、潜伏期間が長いことは、感染に気付かない人が拡散するという事態を生み出すからです。緊急事態宣言により8割の接触減を目標に、人々の意識に新たな生活様式構築の必要性が芽生えたのは間違いないと思います。再燃がないよう願いたいですが、ウイルスとの共存は避けえないとの意識も根付きました。
 意識への働きかけのために払った社会経済の犠牲は、大変大きなものとなりました。今後の生活変容がどのような社会の在り様につながるのか、まだ予想がつきません。「コロナ以前の生活に戻ることはない」とよく聞かれます。業種や業態により受ける影響は大きく異なり、相当数のキャリア断絶が起こることも想像に難くありません。
WHO(世界保健機関)憲章の前文に「健康とは単に病気がないとか病弱ではないことではなく、身体的にも精神的にも、社会的にも良好な状態である」とあります。これからは、感染症から身体を護ることを前提に、全ての人が精神的、社会的に良好な状態となるよう行動していくことが求められています。そこには、現在大変厳しい状況に置かれている方々が良好な状態を取り戻していくことも含まれます。

≪メールマガジン第99号≫2020-05-01配信

【社会人育成への疑問 - 神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第2回)】

<不要不急の行動自粛のとき考えたこと その①>

 暦の赤い数字が連なるときですが、今年は行動範囲を狭め、どのように過ごしておられるでしょうか。生活相談窓口へは多くの相談が寄せられ、生活の維持が非常に難しい方が急増、一方で、感染の広がりのなかで、多忙を極め、健康維持が課題の方々も増えています。大学の授業もオンラインで始めることとなり、俄かに新しい技術に触れながら講義準備に追われることになりました。大学に立ち入れない環境の中で、悩む学生も増えているのだろうと心配です。
 
「社会人育成ってなに?」について書かせていただこうと思っていましたが、就職活動も大きく変化する事態に直面することになりました。新型コロナウイルスの感染拡大がこの1か月で急激に進み、他者との接触を減らす必要から、多くの経済活動へ甚大な影響が及び、経済のマイナス成長が大きく報じられるに至りました。就職氷河期の課題に注目が集まり、改善へ向けた動きがでてきたところでしたが、今は、再度の就職氷河期を生み出さない努力を採用側に求める呼びかけが行われています。
 就職氷河期はバブル崩壊後、大企業の採用控えが進み、新卒の就職率が低くなった時期を指しています。このとき、非正規の採用が広がり、就職内定が得られなかった若者の多くが非正規の社会人スタートを切りました。新卒一括採用が中心のわが国では、この時の若者の多くが、その後厳しい労働環境を抜け出せないまま中年期に突入しているのです。その後、リーマンショックの影響で、再度若者の就職率が低下したときも同様で、第二新卒ということばも生まれました。
 今回の景気後退の原因である感染症について、少し触れたいと思います。感染症の怖さは、歴史の中に刻まれています。日本においては、結核との闘いはよく知られるところです。1950年頃までは結核は日本人の死因の上位に位置していました。結核菌を活用した薬物の発明により、結核は死につながる感染症という理解はほぼなくなりました。BCG予防接種が行われ、免疫をつけることにより、感染の脅威から逃れるシステムが作りあげられたのです。しかしながら、今も日本では、年間1万数千人の結核の新規患者が生まれ、結核による死亡者も2千人余りいることを知っている人は、それほど多くはないでしょう。結核感染が起こりやすいのは、今回のコロナウイルスでも指摘されている三密条件の環境、罹りやすいのは、免疫力の弱い乳幼児や高齢者、他の疾患を持つ人、喫煙者などです。特に、生活困窮にあり、栄養状態も住居環境も悪く、多くの人が集まるところで生活する場合には発症しやすいことも明らかになっています。このような人々を増やしてはいけないのです。
 いつか、コロナウイルスの感染も歴史の一つになっていくのだと思います。この脅威の最中に感染症について知ることで、今の状況を乗り切る知恵と行動指針の示唆が得られるのではないでしょうか。歴史をどう描くかにつながります。

≪メールマガジン第98号≫2020-04-01配信

【社会人育成への疑問 - 神戸学院大学・学生の未来センターからのつぶやき-(第1回)】

<神戸学院大学に「学生の未来センター」ができました。>

 神戸学院大学に「学生の未来センター」が開設されたのは、昨年(2019年)4月です。学生に配布するリーフレットには「学生生活を続けることに困ったとき、大学を休みたい・やめたいと思ったときは、ひとりで悩まずご連絡ください。」と記しています。これから12回にわたり、この間学生と話し、活動してきた中で感じたこと、調べたことなどをつぶやかせていただこうと思います。
 現在、大学への進学率は54.7%(2018年)、女子の進学率が男子よりも5%上回っていることはご存知でしょうか。1985年の大学進学率が33.9%であったことと比較するととても大きな上昇がわかります。過半数の若者が大学で学び、社会人として巣立っていきます。大卒の就職率は97.6%(2019年)と発表されており、ほとんどが就職していると思ってしまいます。実は、この割合は、就職を希望するもので卒業したもののうち、就職したものを示しています。つまり、就職を希望しなかったもの、卒業できなかったもの、さらに言うと、途中で退学したものはカウントされません。
 2014年に行われた文部科学省調査「学生の中途退学や休学等の状況について」では、年間8万人の退学者がいる事実が初めて明らかにされました。その割合は2.65%であり、4年間では10%を上回るのです。
 大学を辞めた学生はどうしているのでしょう。未来を切り拓いていっているのでしょうか。労働力調査の結果では、ここ数年完全失業率(2.6%、2018年)の低下傾向が示されています。このことは社会にとって望ましいものですが、15歳~24歳の失業率は4.1%と、他のどの年代と比較しても高い状況にあります。非正規就労をしている若者も少なくありません。15歳~24歳の非正規就労者は2019年4月時点で240万人であり、5年間に23万人も増えています。この中には、正規には働けず、不本意な就労形態を続けているものも多く含まれます。中途退学したり、働き続ける職場に出会えず途方に暮れていたりする若者の状況が推察されます。このような状態に大学への進学が貢献しているのを、何とか止めなければなりません。その思いから「学生の未来センター」は動き出しました。
 まだまだ学内でも周知が必要な状況ですが、この1年、数十名の学生との面談を通し、「社会人って何?」、「社会人育成ってどんな人を育てるの?」 という疑問がわいてきました。来月からのつぶやきは、できればご意見やご助言、ご協力をいただきたいという密かな思いを込めて伝えさせていただきます。慎ましくない1回目のつぶやきとなりましたが、これからどうぞよろしくお願いいたします。
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